「模写の世界―技法で読み解く日本とアジアの絵画―」展では、芳泉文化財団の助成を受けて達成された、模写による最先端の研究を展示します。
芸術文化の保存と振興において、日本では模写が重要な役割を担ってきました。明治20年代、文化財保護の概念が普及する過程で、岡倉天心らが古美術作品の模写を唱導しました。その頃から模写には伝統的な絵画学習としての役割だけでなく、文化財の状態記録や代替品としての役割を果たすような、緻密な表現が求められました。現代の教育現場で行われる模写にも、傷やシミまでも写しとる現状模写が引き継がれています。
更に、近年では精度の高い模写を通した、文化財の学術的な研究という分野が発展してきました。熟覧調査、サンプル制作、科学分析、文献調査などを踏まえて描かれた模写が文化財の研究に次々と新生面を切り拓いています。
初の大阪での開催となる今回は、過去の助成者8名による研究成果を発表展示します。古代から近代の日本やアジアを舞台に育まれた絵画の模写を通し、それぞれの研究者が独自の視点に立って技法の謎やその背景にある伝統、歴史までひも解きます。是非、日本の芸術文化を担う模写の世界をお楽しみください。
※尚、10/1(土)には関連イベントとして東京藝術大学、愛知県立芸術大学、京都市立芸術大学の各先生方による講演会・座談会を開催します。伝統を継承しながらも、変容を続ける「模写」の現在地点と将来を展望します。先着順となっておりますので、こちらも併せてご参加頂ければ幸いです。
会場:大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco] ルーム1、2、3(4階)ルーム4(1階)
会期:2022年9月28日(水)〜10月2日(日)
10:00〜20:00(最終日は12:00まで)
※講演会・座談会は10月1日(土)ルーム1およびルーム8で13:30〜15:30に開催
主催:公益財団法人芳泉文化財団
公益財団法人芳泉文化財団は、日本の芸術文化の保全と振興に寄与することを目的として、「日本画と彫刻の保存・修復」、「日本映画の制作・研究」の二分野において、その担い手となる制作者を育成している大学研究室や大学院生に対して支援をおこなっております。
「日本画と彫刻の保存・修復」への研究助成事業は、「過去の大切な遺産を、未来へきちんと伝えていくこと」という理念のもと、東京藝術大学大学院、愛知県立芸術大学大学院、京都市立芸術大学大学院、金沢美術工芸大学大学院、東北芸術工科大学大学院の五大学院に所属する若手研究者並びに大学院生の高度な専門研究を対象としています。
隔年で成果展を開催しており、本年6月には東京藝術大学大学美術館で助成を開始してから10年の節目となる(1)、記念特別展を開催しました。
また、それに併せて今回は財団が所在する大阪で初めて展示を開催します。研究成果の公開を通じて、ひろく皆様からのご理解を賜りますとともに、研究者たちの今後の活躍の励みとなりますことを願っております。
(1)第五回文化財保存学日本画・彫刻研究発表展及び公益財団法人芳泉文化財団10周年記念特別展は、新型コロナウイルス感染症の影響により2年の延期ののち開催しました。
正垣雅子「十一面千手千眼観音像 −サスポール石窟第3窟西壁壁画−」模写、「釈迦如来と二大弟子像 −サスポール石窟第3窟北壁壁画−」模写
阪野智啓「真長寺本『十二天像』のうち帝釈天、火天、羅刹天、水天、毘沙門天、伊舎那天、梵天、地点の想定白描復元図」
石井恭子「李迪筆 国宝『紅白芙蓉図』想定復元模写」
森田早織「青蓮院所蔵 国宝『不動明王二童子像』の想定復元模写」
飯田穂野香「薬師寺所蔵 国宝『吉祥天画像』現状模写」
林宏樹「岩崎小彌太旧蔵 尾形光琳筆『松島図屏風』想定復元模写」
林樹里「東京国立博物館蔵 酒井抱一筆『四季花鳥図巻』模写」、「尾形光琳筆『四季草花図巻』模写」
谷津有紀「河鍋暁斎記念美術館蔵『龍頭観音図下絵』墨画淡彩の技法再現模写」、「河鍋暁斎記念美術館蔵『龍頭観音図下絵』に基づく技法再現模写」、「日本浮世絵博物館蔵『観音菩薩図』技法再現模写」、「專光寺蔵『龍頭観音図』技法再現模写」
芳泉文化財団HP https://www.housen.or.jp/